スピッツ

 

私はスピッツが好きである。

しかし、筋金入りのスピッツファン というわけでもない。大学生になってから初めて空の飛び方/ハチミツ/インディゴ地平線/花鳥風月/惑星のかけらの5枚を千円でバイト先から一番近いTSUTAYAでレンタルした。

しかしいまさらスピッツを聴いてみようとはたと思い立ったのには理由がある。言葉選びのセンスが好きで密かに毎日更新を楽しみにしていたツイッターのフォロワーさんが、「草野マサムネ似の上司」が日々かっこいいことを呟いていたのである。

その「草野マサムネ似の上司」は少しだけ無骨ででも可愛らしくて少し優しい。らしい。草野マサムネ似の上司が輪郭を帯びるにつれて、草野マサムネ自身についての呟きにも目が止まる。どんな人なんだろうか。

 

正直詳しく知るまで私はスピッツを「なんか山羊みたいな、常にミント食わされてるみたいで全員草食ってそうなバンド」と思っていた。牙のないフワフワした同じような曲ばかりのつまらないバンドだと、チェリーと空も飛べるはず だけを聞いて。

そこからいちばん最初にどの曲を聞いたのかはっきりとは覚えてないが、これまでの印象を変えてくれたのは「スパイダー」だったかもしれない。

さびしい僕は地下室のすみっこでうずくまるスパイダー 洗い立てのブラウスが今筋書き通りに汚されていく

    あれ   思っていたより爽やかじゃない。思ったより人間臭い。あとなんとなくだけど拡声器持ってるだけですごくパンクだしロックに見えた。多分グループ魂遠藤ミチロウ」の影響だ。何度もスパイダーを繰り返し聞いた後、「俺のすべて」を聞いた。俺のすべてを三回聞いてまたスパイダーを聞いた。凄く人間だった。こんなに細くて中性的な声をした人なのに確かに男でどこまでも人間臭い人だった。そこが魅力だと感じた。

スピッツははじめから癒し系路線(これも少し語弊があるが)だったわけではない。パンクロックに憧れた線の細い青年と見た目のいかつい兄ちゃんの大学生二人がはじめたロックバンドがルーツだ。普通。凄く普通だ。それがいい。

インディーズ時代の曲がYouTubeに何本も上がっているのでぜひ見てほしい。インディーズ時代の"尖り方"が青くて必死で、たまらなく好きだ。なんとか憧れの音楽に近づきたい。理由は好きだから。背伸びして届かなくてダサくても好き でも好きだからこそ手の届かないもどかしさ。しかし、その必死に磨き育てた牙は、ブルーハーツによっていとも簡単にへし折られる。

そこでショックを受けて音楽活動を中止したのも好きだ。その気持ちが痛いほどわかるからだ。自分の好きなもので、自分よりも才能のあるやつがでてきたら悔しくて悔しくて暴れまわりたい気持ちになるし、自暴自棄になるし、なんなんだよ!と言いたくなるし、でも確実に自分よりいいものを作るし。と痒い気持ちになる。

 

スピッツはそこで腐らずに、マサムネさんの繊細で残酷な感性を活かした音楽づくりに方向転換し、大ヒットしたわけだが、ところどころには俺たちはロックバンドなんだ!という尖りを感じるのが私は大大大好きだ。譲れない意地、芯の部分。

去年発表された1987→にはインディーズ時代の「泥だらけ」という曲のイントロ部分などが引用されている。彼らはインディーズ時代を黒歴史にしていない、むしろ自らの大事なルーツとして、好きなものに誇りを持っている。

それが逞しく、格好良いと私は思う。